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■1月某日
角川書店さんより、突然の電話――なんと、あの『大魔神カノン』の小説版を書いてみないか、とのオファーをいただいたのだ!
……巷で噂の、謎の特撮番組。『クウガ』『響鬼』のスタッフが放つ、角川書店オリジナルの新番組の、ノベライズ――!
「やります! ぜひともやらせて下さい!……いや、絶対にオレがやる!オレにやらせろおおぉぉぉ!!」
受話器を握る手が、興奮に震えている――嗚呼、特ヲタSF作家の血が騒ぐ!
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■1月某日
『大魔神カノン』全26+1話のシナリオが届く。読み始めると共に、特ヲタの勘が、何かを感じ取る――。
「これは……どう書けばいいのか、さっぱり分からない……」
大魔神であって、大魔神ではない。東●ヒーロー物のようで、実は全然そうではない。これまでに見たことがない、全く新しいノリを持ったシナリオを前に、しばし茫然……。
まぁ、いいか。小説版は、番組終了後に刊行されるはずだし。放映される番組を見ながら、ゆっくり考えるとしようかな。ぐぅ。
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■2月某日
飯田橋・角川書店にて、担当N氏との初打ち合わせ――。
「今回のノベライズはですね、1クールが終わった辺りで刊行します」
「……えっ? ……それじゃあ……」
「はい。放映中の刊行となります。締め切りまで、あと3ヶ月しかありませんね」
「えええええ? 放映中ってことは、もしかして……」
「はい! ブジンサマは目覚めないかもしれません。イパダダも退治できません。カノンちゃんも、まだまだ悩んでます。――だけれども、小説版としての結末はちゃんとつけて貰いますので、そこんとこヨロシク!」
「……そ、それじゃ、せめて……」
「あー。外伝とかは今回ダメですから。あくまでも、番組の内容に沿った話でお願いします」
「……でも、その番組自体がまだ放映されてない訳で……?」
「ふふふふ、頑張って下さいね! さて、小説版の主人公を誰にするかですけれど……」
衝撃の初打ち合わせを終えた直後、手近な居酒屋に飛び込み、ビールを呷りながら、オンバケ・サワモリを軸としたプロットを練り始める――ハードな仕事だけど、特ヲタ魂で頑張るぜ。シュッ!
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■2月27日
提出したプロットは概ね好評――今日は、N氏の御手配により、アフレコ現場を見学させていただく。
番組本編が放映されていない現在、シナリオに表れていない「作品のニュアンス」を掴むには、これしかないのである。映像のテンポやキャラクターの口調を知ることができるだけでも、小説版執筆には大いに助けとなるはずだ、と気合を入れてアフレコルームへ……。
おおっ! ――た、高寺プロデューサーだ! 坂本、鈴村監督だ! ……うひゃーっ! 生カノン=里久鳴祐果さんとお話しちゃったよ! ……わわわわっ! ブジンサマだ! ブジンサマが目の前を歩いてる! そして、そしてこの「声」は……か、上條恒彦さんの「いのりうた」を生で聴けるとは! どひー。
……興奮してばかりで、取材にならんかった。あああ。
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■3月某日
高寺プロデューサー、シリーズ構成の大石真司さんと初顔会わせ。N氏と共に考えてきたプロットの感想を聞く。
緊張――いや、怖い打ち合わせだった。
それなりに自信を持っていたはずのプロットだったが、高寺・大石両氏のご慧眼を通して見られると、キャラの捉え方や作品のテーマ性に、多くの誤解があることに気付かされる。
妥協は、一切ない。これが『クウガ』の――高寺・大石マインドか――。
……自らの未熟を痛感しつつ、家路につく。こうなったら、何がなんでも、この作品を書ききってやると誓いつつ、夜空にサムズアップ。
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■4月2日
『大魔神カノン』放送開始――あ、突然ですが、結婚しました♪
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■4月某日
新妻の淹れてくれたコーヒーをがぶ飲みしつつ、小説版の中盤、大戦末期パートを執筆。
……小説版オリジナルのオンバケ・カワヒメのモデルは、デ●イエロー=木下あゆみさんだというのは、特ヲタ的秘密だ。
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■5月某日
締め切りは迫るが、書けないときには書けない。……いのりうたを歌えないカノンの苦しみを追体験しつつ、終日ゴロゴロダラダラと過ごす。オレの馬鹿。
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■5月某日
長野剛画伯の手による表紙画の画稿を、N氏より見せていただく。
……おおおおおおッ、か、カッコえええええ!!!!!
いや、本当に素晴らしい! 俄然ヤル気出た!
ゴロゴロダラダラを吹っ飛ばして執筆再開。単純で悪いか!
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■5月某日
完成間近な初稿を読み返す。
「芋長の芋羊羹」とか「アイネット配送センター」とか、分かる人にしか分からないネタが満載の原稿を前に、溜息をつく。
……いや、これでもかなり自粛したんです。ちなみに、拓ちゃんが疎開した「長野の親戚」は「九郎ヶ岳」だというのは、どうでもいい裏設定です。あああ。
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■6月某日
ついに、ついに初稿完成! ……N氏より送られてきた初稿ゲラを前に、しばし感涙にむせぶ。――新妻、ゲラを一読して、一言。
「なんか、書き急いでる感じがあるわねぇ。作品のテーマをつかめてないような……」
――修正地獄と夫婦の危機を同時に予感して、激しく落ち込む。
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■6月某日
新妻の指摘は正しかった――修正地獄に突入。
細かい修正ではない。『大魔神カノン』という作品の根幹に関わるべき、大きな修正が……。
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■6月某日
タイムアップが迫る中、原稿の修正が続く。
……今にして思えば、『大魔神カノン』とは、「ありがちな特撮番組」の図式に敢えて異を唱えるような志に満ちた企画だったのだ。それ故にこそ……特ヲタとして、「ありがちな特撮番組」の図式に馴染んでいることが、逆に命取りになろうとは!
……編集N氏や大石氏からいただいたご意見を参考に、重要部分を修正するものの――ラストシーンが、どうしても思いつかない! どうすればいい、どうすれば……。
激しく悩む頭の中で、あの娘が――巫崎カノンが、優しく微笑みかける。
「タタツさん、任せて下さい! 私、ちゃんと演ってみせますから……!」
ラストシーンは、彼女に任せた――良い結末になった、と思う。
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■6月某日
修正されたゲラを読んで、驚いたように新妻が言う。
「すごい……最初に読んだとき感じた違和感が、完全になくなってる……面白くなってるわ……」
感動。嗚呼、感動。徹夜続きの目に涙を浮かべるオレの前で、新妻はさらに一言――。
「――編集さんって、すごい……」
……だから! 世の中には、言っていいことと、ホントのことがあるんだってば!(泣)
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■7月某日
深夜、最終ゲラの校正を完了。編集N氏に自宅近くまで御足労を願い、ゲラを手渡す――我ながら、駆け出しの作家とは思えない暴挙である。ごめんなさい。
今回お世話になった、大ベテランの編集N氏は、このお仕事を最後に、編集の現場を離れて、別の部署に異動されるのだという。
……今回のお仕事を通じて、大きな勉強をさせていただきました。
Nさん、ありがとうございました――。
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■7月20日
今回、小説版の執筆を終えて。
『大魔神カノン』という作品の重要なテーマは、「待つ」ということではないかと思う。
全てが慌ただしく、何かに追い立てられるように急ぎ走り続ける時代の中、性急に結果のみを追い求めるのではなく、「待ち続ける」ことの大切さを問い直そうとするような……そんな、ドラマだ。
無論、「待つ」ことにはリスクもあり、時には少なからぬ犠牲さえ伴うだろう。
それでも、オンバケ達は、カノンの歌を――ブジンサマの目覚めを待ち続ける。
「待つ」ことこそが、「試練」だから。その為に、彼等は待ち続ける……。
――メールが入った。N氏からだ――
「えっ? 公式サイトに掲載する、メイキング日記……締め切りは明後日――!? ……ちょ、ちょちょちょっと待って下さい! 待って下さいよう、Nさん。……お願いだから、もうちょっと待って下さいよう……!(号泣)」
サワモリの――そして、タタツの試練は続く。
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